鉄と触媒 身近な金属が時代の流れを左右するような優れた触媒となった

地球全体でみると、その35%が鉄でできている。鉄は非常に身近な元素だ。

人類は鉄を農機具や武器などとして使うことで、地上での勢力を拡大してきたともいえる。

その身近な元素である鉄は、20世紀以降の人類の在り方を大きく変えることに貢献している。

非常に重要な二つの反応の触媒成分として用いられているのだ。

ハーバー-ボッシュ法触媒:アンモニア合成

化学肥料の原料となる硝酸は、白金を触媒として用いることでアンモニアから製造できる。この反応はオストワルド法と呼ばれている。

アンモニアが大量にあれば、硝酸にして化学肥料にすることができ、農作物の収穫量は大幅に増大する。

このアンモニアを、空気中に豊富に存在する窒素から生産する方法の工業化を試みたのが、ハーバー(Harber)とボッシュ(Bosch)だった。

当初、バーバーとボッシュは、触媒としてオスミウム(Os)を用いていたが、工業的に大量に使用することができない、貴重な金属であるためだ。

そこでミタッシュ(Mittasch)が工業化のための触媒探索を行った。現在、バーバー-ボッシュ法の触媒として知られている触媒の成分はFe-K2O-Al2O3である。

主成分は鉄(Fe)であり、添加剤としてのカリウム(K)、無機担体としてアルミナが含まれている。

20世紀以降の化学肥料の普及と人口の増加には、鉄を成分とする触媒が大きく貢献しているのだ。

フィッシャー-トロプシュ法触媒:合成ガス(CO+H2)からの液状炭化水素合成

一酸化炭素(CO)と水素(H2)は、石炭のガス化、天然ガスの改質などで得ることができる。これを液状に変換できれは、ガソリン等の液体燃料やその他の化学製品の原料となる。

つまりは、石炭や天然ガスなどを、石油の替わりとすることができるということ。

この反応は、当初前出のミタッシュによって亜鉛Zn-クロムCr系の触媒で工業化されている。

その後、フィッシャー(Fischer)とトロプシュ(Tropsch)らによってさらに検討が進められ、鉄(Fe)やコバルト(Co)を用いた触媒系が実用化されている。

この反応でも、鉄が触媒成分となっている。代表的な触媒成分はFe-Cu-K-SiO2などである。

銅(Cu)やカリウム(K)、ケイ素(Si)はいずれも、地球上に比較的豊富にある元素である。

このフィッシャー-トロプシュ反応が工業化されたことで、石炭を一旦合成ガス(CO+H2)に変換した後、液体燃料に変換する石炭液化が可能になった。

原油に頼らず、液体燃料が製造できるようになったのだ。

ハーバー-ボッシュ法もフィッシャー-トロプシュ法も、いずれもドイツでの研究が進んでいた

20世紀の初頭。国際情勢は複雑に動いており、状況によっては原油などの輸出入が各国の思惑で制限される可能性があった。

そのような状況では、エネルギーや食料の確保に独立性を保てるような技術はどの国でも欲しかっただろう。

ハーバー-ボッシュ法やフィッシャー-トロプシュ法を、他国に先駆けて工業化したドイツのその後の経緯を思うと、触媒研究にたずさわった経験があるものとして、複雑なものを感じる。

余談だが、ドイツという国は「鉄」と関わりがあるようなイメージがある。

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